by 小菅 伸
どのように異なる器官で、大腸の機能を行います
冬もそろそろ終わりを迎えるとはいえ、夜の闇は透き通るような冷たさを帯びている。
そんな闇の世界には、我々の知らぬ魔物達が"聖戦"と名づけられた夜毎のゲームに身を投じている。
そう、ここは巨大な舞台。背徳と冷たい狂気とが渦巻く、吸血鬼たちの仮面舞踏会。
さて、吸血鬼と言うと、皆さんもなんらかの形でその特徴を知っていることと思います。しかし、我々が知っている吸血鬼の特徴は真実もあればまったくの誤りもあります。
この『暗闇の世界』の吸血鬼の実態はどのようなものなのでしょうか?では、少しばかり闇の中の話し声に耳を傾けるとしましょう。闇の世界のことは、"住人たち"に聞くのが一番です。
- 血族の特徴
- 血潮―――命の源
- "抱擁"―――かつて人だった魔物
- 魔物を滅ぼす力―――吸血鬼の弱点
- 【訓え】―――超常の力
- "獣"―――望まざる永遠の伴侶
- 永遠の病―――心の硬化
- 世代―――血の力
- 血の呪縛―――血の契り
- 哀れなる従僕―――グール
- 救済への希望
- 血族の特徴
- 血潮―――命の源
アレクセイ:(椅子を勧めながら)掛けてくれ、レイチェル。俺はブルハー氏族の一人、ヨシュアの"子"、アレクセイ=ライノソフだ。今日はキミに我ら血族―――キミの馴染みのある言葉ではヴァンパイアと呼ばれる存在だ。聖書にも出てくる"弟殺し"カインの末裔ということでカイン人とも呼ばれる―――について教えよう。
レイチェル:どうも(恐る恐る椅子に腰掛ける)。私はレイチェル………"父"はいません。
アレクセイ:聞いている。心配しなくてもいい。俺は"氏族なし"であることをとやかく言う気はない。じゃあ、まずは血族という種の特徴について説明しよう。
アレクセイ:キミはヴァンパイアと聞いて、どんなものを思い浮かべる?
レイチェル:えっと………不老不死で、人間の生き血を啜って生きるアンデッド………ですか?
アレクセイ:ああ、それは正しい。血族は歳を取らないし、老衰で死ぬこともない。外見は永遠に『人間として死んだ頃の姿』のままだ。血を吸う必要はあるが、通常の食事は必要なく、内臓が機能しないので、食べ物は消化できない。医学的に言えば、俺やキミは間違いなく死んでいる。心臓は既に鼓動していないし、体温もなきに等しく、息をする必要もない。まともな生命活動をしていないから、毒や病とはほとんど無縁だ。そして、外見的にも死体めいた特徴が出てしまう。個々の血族にもよるが、注意深� ��人間が見れば普通の人間ではないことがばれてしまうだろう。少なくとも、ひどく顔色が悪いとは思うはずだ。
レイチェル:でも、私たちは生きていますよね?
アレクセイ:ああ。死体であるはずの我々の体を動かしているのは血の秘めた魔力であり、意志の力だ。血は血族にとって最も重要なものであり、これによって我々は生きていくことができる。だから、我々には血が必要だ。血がなくなってしまえば、血族は動くこともできない(通常は"休眠"と呼ばれる長い眠りにつくことになる)。だから、血族は人間から血を吸う。必ずしも生き血である必要はないし、人間である必要もないが、通常は人間から血を吸う。
レイチェル:どうしてですか?動物から血を吸うことで� �きられるなら、人を襲う必要もないのに。牛や馬の方が人間よりも血が多いと思うんですけど?
アレクセイ:それは動物の血や古くなった血には旨味がないことがひとつ。それと、人間の言葉でいうならば動物の血は『栄養が少ない血』だからだ。たとえ動物から大量の血液を得たとしても、それから得られる栄養―――"血潮"は人間のそれに比べれば遥かに少ない。それに対して、人間の血はこの世のどんな上等な葡萄酒、麻薬にも勝る快感と、永遠の闇の生を支えるに足る力を与えてくれる。なによりも、我々の潜在的な飢えを満たしてくれるのは人間の血以外にはないんだ。
レイチェル:………
アレクセイ:よほどの"血の薄き者"などの例外を除いて、血族には吸血のため の鋭い牙がある。これは普通は隠しておくことが可能だ。必要に応じて、牙を用いて獲物の肌を貫き、血を吸う。これを古い言葉で"接吻"という。接吻は血を吸われる側にも強い快感をもたらす。一度、牙を突き立ててしまえば、よほど意志の強い者でもないかぎり、なされるままになる。中には"接吻"の快感の虜になってしまう人間もいるほどだ。
レイチェル:そして、その血によって私たちは力を得るのですね。
アレクセイ:そのとおり。血は、血を得ること自体が最も重要だが、それと同時に血族の力の源だ。蓄えた血を消費することで、血族は人間を遥かに超える腕力や電光石火の速度を得ることができる。通常では考えられないような速度で傷を癒すこともできる。血を体に巡らせるこ� �で、人間のフリをすることも可能だ。その気になれば、人間と交わることさえできる。もっとも、死体である血族は普通に子孫を残すことはできないが。
レイチェル:本当に様々なものを与えてくれるんですね。血潮………"命の水(アクア・ウィタエ)"と呼ばれるのもわかる気がします。
アレクセイ:そう、血は血族の活力の源だ。だが、それだけに吸った血に含まれる薬物や病の影響を若干ながら受けることもある。酔っ払いの血を飲めば、ほろ酔いになる。麻薬を打った者の血を吸えば、幻覚を見ることもある。毒物が血に混ざっていれば、多少はその効果を受けるし、非常に稀だが病になることもある。特に血液を媒介とする腐敗性の病は血族も影響を受ける(大抵は血族は病の媒介となる� ��けだ)。かつてヨーロッパに蔓延した黒死病は、多くの血族を苦しめたらしい。
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レイチェル:そういえば、吸血鬼に血を吸われた人間は吸血鬼になってしまうのではないですか?
アレクセイ:それは誤りだ。その論法でいけば、今ごろ世界は血族で溢れかえってしまい、破滅しているだろう。とはいえ、人間が吸血鬼になる、という点では間違っていない。我々は人間から生まれるんだ。より正確には作られるというべきだろうが。
レイチェル:というと?
アレクセイ:血族は血を吸い尽くされた人間から生まれる。この新しい血族を生み出すことを"抱擁"という。これは難しい手順はない。死んで間もなくであれば、死体を"抱擁"によって血族として甦らせることも可能だ。親となるヴァンパイア―――"父"と呼ぶ―――は"子"となる 人間の血を吸い尽くす。その後で自らの血を幾ばくか"子"となる人間の口に注ぎ、飲ませる。事故や稀な例外を除いて、子は一度死んで不死の者として甦る。例外というのは、親となる者の血があまりに薄かったり、"子"となる者が血族になるのを拒んだりした場合だ。もっとも、後者は、"子"が拒んだからといって必ずしも失敗するとは限らないが。
レイチェル:………私は、ただ『死にたくない』と思いました。そして、気がついたら………
アレクセイ:そんなものだ。たとえ天国の階段を前にしても、命というのは人を惹きつける。たとえ、それが呪われた闇の生だったとしても、だ。
レイチェル:でも、なぜ、血族は"子"を作るのです?永遠に生きる者に、子孫を残� ��意味があるとは思えません。
アレクセイ:それには血族ごとに様々な理由がある。将来の同盟者や家来が欲しいのかもしれない。闇の生における孤独を癒す同胞や伴侶を求めるからかもしれない。なにかの弾みで、間違って"抱擁"がなされることもある。あるいは死に瀕している人間を助けようとして、闇の生を与える場合も。
レイチェル:なんだか、人間のような理由ですね。
アレクセイ:ああ。血族はかつては人間だった。ここにいるのは化け物ではなく、元は人間だった魔物だ。
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レイチェル:血族は伝承によると弱点も沢山抱えていますよね?たとえば、流れる水を渡れないとか、ニンニクや十字架に弱いとか………
アレクセイ:それは誤解だ。まあ、誤った情報を流して血族の真実を人間から隠してきたのは我々なわけだが………まず流れる水を渡れないのは完全な誤りだ。流れる水を渡れないと思い込んでしまっている血族もいるし、そうした者は本当に泳げなくなってしまっているが、普通はそんなことはない。ニンニクについても同様だ(もっとも、大抵は血族はニンニクに限らず食物を食べることができないが)。次に十字架だが、これは誤ってもいるし正しいとも言える。通常、十字架を突きつけられても、血族は怯まない。しかし、それを持つ者が強い信仰心を持� �ている場合、その手に持った十字架や祝福した聖水などは血族を蝕む力を持つ。強い信仰心があれば、十字架でもダビデの星でも独鈷でも構わない。"父"が言うには中世には多くの神父の掲げる十字架が力を持っていたという話だ。だが、現代の聖職者の中で、血族に影響を与えるほどの力を持つ者はほとんどいない。
レイチェル:でも、私たちは陽光を浴びることはできないんですよね?もう、どんなに望もうと。
アレクセイ:ああ。陽光は間違いなく血族にとって最大の弱点だ。陽光を浴びると、血族の体は酷い火傷を負うし、長時間(といっても、時間的には僅かだが)浴びていれば血族の体は燃え上がってしまう。同様に火も血族にとって大敵だ。血族の体には水分が少ないため、燃えると� ��かなか消えない。なにより、陽光や炎による負傷は血族の驚異的な再生能力を以ってしても、なかなか回復しない。これは血族を"永遠の滅び"へと導く恐るべきものだ。逆に、陽光や炎、それと超常的な手段を除けば、血族は首を斬り落とされでもしないかぎり滅びない。"休眠"するだけだ。余談だが、"永遠の滅び"を迎えた血族が人間としての寿命を超えていた場合、灰になって消えてしまう。
レイチェル:あと、白木の杭で心臓を貫かれると滅びてしまうとか。
アレクセイ:確かに、心臓は血族の弱点だ。しかし、心臓を杭で貫いても血族は滅びない。単に身動きが取れなくなってしまうだけだ。ただ、身動きの取れない血族は完全に無力と言っていい。実際、心臓を串刺しにされた数多の 血族が異端審問の炎によって焼かれていったという。あと、注意すべきことは必ずしも心臓を貫くのは杭である必要はないということだ。現代にも影で生き残っている異端審問官が用いるクロスボウの矢は十分に脅威になる。それから、陽光を浴びなくとも、血族は昼になると死んだように眠ってしまう。完全に夜行性の血族が昼に起きているには並ならぬ努力が必要だ。昼に襲われれば、血族は実力を出し切ることもできずに滅ぼされてしまうだろう。だから、寝処には陽光が射し込まないことも重要だが、昼の警備も重要になる。
レイチェル:他にも、鏡に映らないとか、故郷の土で眠らないといけないというのもありますが。
アレクセイ:それは、ある氏族に属する者にとっては真実だ。血族は� �力な祖先と同じ特徴を持つことが多い。例えば、俺はブルハー氏族の末裔だが、ブルハー氏族の血に連なる者は心の底に苛烈な激情(強い"獣"とも言える)を秘めており、我を忘れて、破壊的な衝動に駆られやすいという弱点を持っている。さきほど出た「鏡に映らない」というのはラソンブラ氏族に見られる特有の弱点だ。そう考えると、陽光や炎、吸血といった弱点は最初の血族カインから連綿と受け継がれてきた特徴と見ることもできる。
レイチェル:私には、特にそうしたものはありませんよね。
アレクセイ:そう。"抱擁"によって血族は血に秘められた特徴を受け継ぐが、キミのように親を知らぬケイティフ(氏族なし)には、血筋に宿る特有の弱点や長所がほとんどない。あっても、� ��とんど気にならない程度のものであることが多い。ただし、ケイティフの場合、血筋がわからないことによる社会的な不利が大きいだろうな。血族は血統を重んじるから。
アレクセイ:さて、ヴァンパイアの持つ力というと、キミは何を思い浮かべるだろう?
レイチェル:え………蝙蝠や狼を操ったり、霧に姿を変えたり、人間を魅了したり。あと、怪力を発揮したりといったものもありますね。
アレクセイ:ああ。確かに血族にはそうした力が宿っている。これは【訓え】と呼ばれる血の魔力を用いた力だ。各地にある吸血鬼の伝承に見られる超常の力は、この【訓え】の力を指している。とはいえ、すべての血族が蝙蝠を操ったり、怪力を発揮できたりするわけではない。【訓え】はさまざまな分野にわかれており、各分野ごとに力の段階がある。生まれたばかりの血族は人間とそこまで変わりはない。より強力な【訓え】の力を得るには徐々に【訓� ��】における魔力の使い方に慣れ、学んでいかなくてはならない。強力になれば、それこそ『ドラキュラ』や『レスタト』のような力を振るうこともできる。この【訓え】にも血筋によって適正があり、その血筋の中に力が宿っている。例えば、ブルハーであれば超常の魅惑や威圧の力を得る≪威厳≫、怪力を得る≪剛力≫、電光石火の速度をもたらす≪瞬速≫の三つが血筋に宿っており、それらに適正がある。血筋に宿る力以外の【訓え】は誰かに教えてもらわなくてはならない。
レイチェル:これも、私たちには当てはまらないんですね。
アレクセイ:ああ。ケイティフには血筋に宿る力はない。その代わりに、ある程度柔軟に様々な【訓え】を学ぶことができる。これは利点でもあり、欠点とも言 える。それから、氏族の中には、その氏族特有の【訓え】を持つものもある。門外不出のものも多く、余所者がその秘密を掴もうものなら、その氏族の者たちに命を狙われることになる。たとえば"妖術使い"と呼ばれるトレメール氏族の編み出した≪魔術≫は彼らにとって最大の武器であり最大の秘密とされている。通常、トレメールが氏族の外の者に≪魔術≫の秘儀を教えることはないし、その秘密を知った者がいれば、全力で口封じにかかるだろう。
アレクセイ:さて、そろそろ我々の最大の呪いについて話をしよう。
レイチェル:最大の呪い?
アレクセイ:そう。最大の呪い。それは我々の心の内に住まう"獣"だ。
レイチェル:………でも、本能的なものは誰しも持っているものなんじゃないですか?
アレクセイ:確かにそうだ。だが、我々は本質的に捕食者だ。人間を狩り、その血を啜る捕食動物。その我々の中には人間よりも遥かに強い獣性が宿っている。陽光や炎による根源的恐怖、強い飢えや激しい怒りによって我を忘れれば、たちまち"獣"は表に現れる。そして破壊的な衝動に任せて数多の罪を犯すだろう。"獣"が表に現れるのは大きく分けて二種類ある。炎や陽光に対する� �能的な恐怖によるものを"紅の恐怖"、飢えや怒りによるものを"狂乱"と呼ぶ。たとえ、真に愛しい人を前にしようとも、"獣"に支配された血族にとっては餌か、あるいは自分を邪魔する障害でしかない。血族は、この内なる"獣"を恐れ、"獣"と長い間戦い続けてきた。そのために我々は人間らしく振舞い、人間としての倫理規範に従おうとする。
レイチェル:人間らしく?
アレクセイ:そうだ。一時的な衝動は自制心、意志の力で押さえ込めるかもしれない。しかし、"獣"を内に閉じ込めておくには"獣"を否定しなくてはならない。そのためには『人間としての自分』を保たなくてはならないというわけだ。もしも、『人間としての自分』を失ってしまえば、血族はただの血に飢えた怪� ��になってしまう。
レイチェル:人間らしく生きる………それは、喜ぶべきことなのではないのですか?私たちは、呪われた獣ではなく、人間なんだって思うということは。
アレクセイ:確かにそうだ。俺もそう思うし、それが間違っているとは思わない。が、人間として生きることが苦難と苦悩に満ちたものなのもわかる。
レイチェル:?
アレクセイ:我々は、先ほども言ったとおりに捕食者だ。どんなに否定しようとも、血に対する飢えはやってくる。それを永遠に押さえ続けるのは不可能だ。飢えが強まれば、強くなる"獣"の前に己を見失ってしまう。"獣"を遠ざけようとすれば、血を吸わなくてはならない。しかし、血を吸うという行為は人間としては� ��涜的な行為だ。人間から無理やり血を吸うことは、乱暴に言えば強姦と変わらない。たとえ、無理に血を吸わなくても、飢えによる"狂乱"の危険が常にある以上、我を忘れて人間の血を吸い尽くして殺してしまう危険性は何処にでも、どの血族にもつきまとう。
レイチェル:………
アレクセイ:そして、やがては人間に価値を見出せなくなる。人間はたとえどれだけ大切に思おうとも、いずれ死んでしまうからだ。そうなると人を殺すのにも躊躇いを覚えなくなってくる。そして、いく度も罪を重ねるうちに歯止めが利かなくなり、いずれはすべてを諦めて『人としての自分』を見失ってしまう。こうしたことは誰の身にも、本当に簡単に起こりうる。これが血族が常に抱える矛盾であり、苦悩だ。
レイチェル:私にも憶えがあります。初めて、自分が何者か知ったとき、私は干からびた死体を抱いていました。あの時のことを思い出すと、言いようのない恐怖と後悔で胸がいっぱいになる………
アレクセイ:それでいい。キミはまだ、"獣"を否定することができるということだ。
アレクセイ:さきほど言ったとおり、血族として長い時間を生きるにしたがって、その人間としての心は薄れていく。そして、より狡猾で冷酷な魔物になっていく。ただ、そうでなくとも血族となることで失われるものが、いくらかある。
レイチェル:え?
アレクセイ:一つには、血族は基本的には『時の止まった存在』だということだ。多くの古い血族は、新しいことを学ぶ能力に欠けている。たとえ、聡明で狡賢く、機知に富んだ血族でも、移り変わる時代の波に付いて行けないことは多い。
レイチェル:でも、それは人間でも言えることではないのですか?年老いてしまえば、新しいものを学ぶのは困難でしょう?
アレクセイ:確かに、キ� �の言うことは正しい。ただ、今の時代にe‐メールはおろか、電話すら満足に使えないと聞いて、キミはどう思う?
レイチェル:………重症ですね。
アレクセイ:そう。血族の時間は基本的には『血族になる前』で止まっている。そんな血族が現代の変化の早さについていくのはほぼ不可能だ。さらに言えば、血族になることで人間のような想像力や発想力は失われてしまう場合が多い。これも『時の止まった存在』ゆえに起こりうることだと考えられる。
アレクセイ:血族は血によって闇の生を保つと言ったが、血族の持つ血の力には世代によって差がある。
レイチェル:世代?それは人間と同じ意味でいいんでしょうか?
アレクセイ:ああ。世代というのは血族の始祖から、どれだけ離れているかを表す。最初の血族である太祖カインを第一世代として、その子を第二世代、さらにその子を第三世代………というように。完全な血族としての特徴を備え、地獄堕ちの呪われし者とされるのは第十三世代までだ。さらに下の世代になると、血族としての特徴が薄れ、血が薄いために大した力もない。"抱擁"によって子をなすこともできなくなるという噂だ。中には陽光にも焼かれず、人間の間に子供を作ることができるなんていう噂も� ��る。カインの呪いと力は、世代を経ることに減じられていくという良い例だとも言えるな。
レイチェル:血の力は、世代によって決まる………?
アレクセイ:そうだ。血族の潜在的な力は、その血の濃さ―――世代によって決まる。もっとも、世代は年齢とは異なるから、若くかつ古い世代の血を持つ者もいるし、割合新しい世代の血を持つ年老いた血族もいる。おおむね、血族は歳を取り、経験を積むことで力を蓄えるから、世代は力の一つの目安でしかない。ただ、古い血を持つ者はそれなりに畏怖を勝ち取ることができるだろうし、薄い血を持つ者は軽くあしらわれる可能性がある。
レイチェル:でも、必ずしも世代で力を比べることはできないけれど、古い血を持つ者の方� �、将来的には優位ですよね?
アレクセイ:そうなるな。潜在能力が世代によって決まってしまうから。それを捻じ曲げて、より強力な力を得るためには最大の禁忌を犯すしかない。
レイチェル:禁忌?
アレクセイ:そう。"同族喰らい"と呼ばれる最も重い罪だ。より世代の古い者の血を吸い尽くし、魂までも喰らうことでその力を己のものにする。相手の魂の平穏(血族にそれがあるとして、だが)までも奪い去る、人間として最悪の所業といえる。だが、"同族喰らい"によって得られる力と快感の誘惑に駆られ、罪を犯す者は後を絶たない。中には"同族喰らい"の快感の虜となってしまい、世代などお構いなしに貪り喰うようになった邪悪な者も存在する。当然だが、"同族 喰らい"を行う者にとっては古い血を持つ者は魅力的な獲物だ。
レイチェル:恐ろしい………
アレクセイ:普通、"同族喰らい"を犯した者は徹底的に狩り出され、悲惨な最期を迎えることになる。だが"同族喰らい"が、より薄い血しか持たない者にとって最大の武器になることも事実だ―――運と勇気と実力が必要だろうが。血族は不死ゆえに世代交代は人間のようには起こらない。若者と長老との絶えることない争いも、血族の呪いと言える。そして、血族の闘争において、"同族喰らい"は幾度となく行われ、血族社会に変化をもたらしてきた。
アレクセイ:血族の血に魔力があるのは既に述べたとおりだが、血族の血は人間の血を上回る美味であり、強い快感を与える。そして、血を口にした相手を魅了し、呪縛する力を持っている。これを"血の契り"と呼ぶ。この呪縛は強大で、血を三回飲むことで完成するが、そうでなくともある程度効果を発揮する。たとえば、"抱擁"によって"子"は"父"の血を一度飲んでいるわけだから、好意を持つにしろ悪意を持つにしろ、"父"を完全に無視することはできない。【訓え】によるものとは異なり、"血の契り"によって弱く若い血族が、強力な長老血族を呪縛して操ることも可能だ。場合によっては派閥の有力者が誰かの傀儡として操られている場合もある。
レイチェル:でも、大抵は若� �血族の血は弱い力しか持たないんじゃないんですか?
アレクセイ:そのとおりだが、"血の契り"に関して言えば、血の濃さは関係しない。昔も今も、"血の契り"はありとあらゆる血族の有力な手段として用いられている。"血の契り"を破るには強い意志の力が必要で、抗うことが難しいからだ。そのためには一定の間、血を飲ませた相手から遠ざからなければならない。その間も、呪縛された者は相手に会いに行きたいという衝動を押さえ続けなければならない。相手から酷い扱いを受けているならば多少は容易に解けるかもしれないが、それでも意志の弱い者には至難の業だろう。まして、(たとえ、上辺だけでも)優遇されていれば、さらに呪縛を打ち破るのは難しい。それだけに多くの血族は"血の契り"� �強く警戒している。
アレクセイ:グールというのは血を吸い尽くされずに血族の血を飲まされた人間だ。必ずしも人間である必要はないし、動物のグールを僕として使う血族もいるが、普通はグールと言えば人間のグールを指す。グールは血族の血によって、それが体内にあるうちは老化が止まり、高い耐久力と筋力を得ることができる。その気になれば様々な【訓え】を学ぶことも(困難だが)可能だ。人間だから陽光に浴びても火傷を負うことはない。
レイチェル:………なんだか、良い事ばっかりなんですけど?
アレクセイ:それは良いところしか聞いていないからだ。グールは基本的に人間であり、血族の血が体内からなくなれば、常人に戻る。なによりグールは血族の血に中毒になっているよ� ��なものだ。血を求めて、主人(の血族)のどんな命令にも従う。たとえ、迫害されていても"血の契り"は哀れなグールを縛り付ける。そして、多くの麻薬中毒者がそうであるように、精神を蝕まれていく。
レイチェル:………
アレクセイ:こうなったら、もう人間の尊厳も何もあったものじゃない。特に長く血族に仕えてきたグールは、若い血族が思いもよらぬほど狡猾で残忍であり、ときに凶悪な力を持っている。
アレクセイ:血族は呪われた存在だが、その呪いから救済される方法についての噂はある。
レイチェル:そうなんですか?
アレクセイ:もっとも、それは伝説や御伽噺のレベルでしかない。そのひとつは人間に戻るというものだ。
レイチェル:(身を乗り出して)そんなことができるのですか!?
アレクセイ:落ち着いてくれ、レイチェル。あくまで噂と言ったはずだ。その方法は、ハッキリとは知られていない。人間に戻る方法についても噂ごとにマチマチで、『"父"を殺せばいい』、『血筋に連なる者達を滅ぼす』、『本当に愛する人と結ばれる』とか『誰かのために"永遠の滅び"を迎えたとき、人間として死ねる』といったものがよく� �てくる。人間に戻った血族の噂も聞くが、それは『"父"の友人の兄弟』と言った信憑性に欠けるものだ。結局のところ、真実はわからない。
レイチェル:(がっかりしたように)じゃあ、他には?
アレクセイ:もうひとつはゴルコンダと呼ばれる救済の道だ。これは太祖カインが熾天使の一人ガブリエルから示されたとされている。血族の歴史では賢者サウロットと呼ばれる血族が、ゴルコンダの境地に到達したという。ゴルコンダによって、血族は"獣"を完全に征服できる。二度と"狂乱"や"紅の恐怖"に悩まされることはなくなり、呪われた者から聖なる者となる。そのためには、厳しい試練と贖罪が必要だと言われているが、最後の試練が"嘆息の儀"と呼ばれていること以外は具体的な� ��とは何もわからない。
レイチェル:でも、それを成し遂げた人もいるんですよね?それじゃ………
アレクセイ:残念だが、それが真実という証拠はない。真実だとしても、サウロットは中世に滅ぼされているし、現在でゴルコンダに達したと思われる血族は、噂はあっても存在は確認されていない。もっとも、ゴルコンダを研究するというのは血族の中では思ったよりも熱心に行われているらしい。もしかしたら、何かしらの手がかりを掴んでいる血族はいるかもしれない。ただ、期待はできないな。
アレクセイ:今日のところはこれくらいにしよう。夜が明けるまで、あまり時間もないからな。次は血族社会や血族の歴史について説明しよう。
レイチェル:は� �。今日はありがとうございました。
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